プロジェクト期間のなるべく早い時期にプロジェクトの全体像を明確にすることで、トラブルや予算超過を防ぐことができるのです。
それでは、「計画」工程の実施方法と、押さえておくべきポイントを確認していきましょう。
計画工程で実施すべきこと
計画工程が終わった時点では、そのプロジェクトの全体像が明確になっている必要があります。
何を目標にするのか、それを実現するためには何をしなければならないのか、コストいくらかかるのか、期間は十分か、コストを上回るメリットは得られるのか、不可能な要素を含んでいないか。。
といった様々な問いに答えが出ていなければなりません。
計画工程以降の全ての工程は、計画工程で決めた内容に従って進めていくことになりますので、この工程が充実したかどうかがプロジェクト全体の成否を左右します。
たとえプロジェクトをやめる決断をする場合にしても、判断は早い方がロスは小さく済みますので、計画工程が正確にできていることは重要です。
計画工程の要件は下記のようなものになります。
- プロジェクトのゴールが明確になっていること
- 成果の全体構成が設計できていること
- おおよその課題点が洗い出され、解消に必要なコストや期間がおおよそ把握できていること
- プロジェクト終了までに実施する作業がおおよそ洗い出されていること
- 実現可能なスケジュール案ができていること
- 人員計画が立っていること
- プロジェクト時の管理方法が決まっていること
- 費用対効果比較等、プロジェクトの実施を判断するための材料がそろっていること
計画工程を始める際、上記要件を満たすために必要な作業や生産物をプロジェクトの規模に応じて設定しましょう。
WBSによるタスク分割
プロジェクト計画で、一番重要な作業は、必要な作業(タスク)を全て洗い出すことです。
その後のプロジェクト管理の成否は、作業の洗い出しがががどれだけ網羅的にできているかにかかっています。
作業の洗い出しには、一般的にWBSという手法を用います。
WBSとは何か?
WBSとは、Work Breakdown Structureの略です。
- Work ・・・ 仕事 を
- Breakdown ・・・ 細分化 して
- Structure ・・・ 構造化 する
ということです。
WBSでは、プロジェクトの目標達成のために必要な作業を、大きな単位から小さな単位に向かって順に分割していきます。
その際、Breakdown(細分化)は、実際に行う作業(タスク)に至る所まで行います。
また、Structure(構造)は、Windowsのフォルダ構成のような、ツリー(木)状になります。
WBSを行う事には以下のようなメリットがあります。
WBSを行う事のメリット
作業の網羅性の確保
必要な作業の内容を階層的に分解していくことにより、作業の洗い出しがもれなく行われます。
また、他のメンバーが確認をする際も作業を分類し、階層化しておく方が、抜け漏れのチェックがしやすくなります。
見積もりができる
実際に行う作業にまで分割されていれば、それぞれの作業に要する時間を算出することができます。
作業がきちんと洗い出せていれば、作業のコストを積み上げると全体コストを算出できることになります。
スケジュールを立てる事ができる
必要な作業とその所要時間が必要か把握できていれば、カレンダー上に作業をパズルのピースのようにして並べることができます。
作業の前後関係や、人手の空き具合などの要因を加味して、スケジュールを立案します。
ここで1つ重要なことは、作業の洗い出しは、網羅的にでなければならないという点です。
網羅性が低いと、見積もりも、スケジュールも信頼性が揺らぎます。
作業を進めていく過程で、次から次へと新しい作業や検討事項が見つかるようであれば、設計のやり直し、再スケジュールが頻発しこれまでの進捗報告が嘘になってしまうのです。
これでは、管理どころではありません。
WBSの実施方法
それでは、具体的にWBSによる作業分割を行ってみましょう。
作業工程の列挙
WBSの第一ステップは、大きな作業工程を列挙することです。
- 家を作る場合であれば、「設計」「基礎工事」「躯体工事」「外装工事」「内装設備工事」…など
- システム開発であれば、「機能設計」「プログラミング」「テスト」「マニュアル作成」「教育」…など
の作業工程に分割する事ができます。
事務所の引っ越し例に作業工程を分割してみましょう。
工程毎の作業の洗い出し
次に、各工程に必要な作業を全て洗い出し、リスト化します。1つの作業が複数の工程にまたがることは許可しません。
そうすと、1工程に複数の内容の異なる作業が木の枝のようにぶら下がることになります。
この際、1つの作業で行う作業内容が多すぎる場合は、その作業をさらに分割して、部分的な作業(サブタスクと言います)として、作業の枝としてぶら下げていきます。
最終的に全ての作業が洗い出された作業リストを作成します。
また、決めるべき課題や解消すべき問題点である場合などは、「××を決める」、「△△の問題を解決する」という作業に置き換えることで、網羅性が高まります。
WBS実施際の注意点
WBS実施の際、未定の部分はペンディングにせず、今現在の想定の下で最大限、可能性のある作業を実施することを想定してリストアップしておくことをお勧めします。
例えば、引っ越し前日、社員が近隣にホテル泊させたり、会社から仕出し弁当やタクシー券等を提供しなければならない可能性がある場合、
それに必要な発注作業や予算は、「※宿泊が必要な場合」などの条件を付けたうえで、作業リストや見積もり項目として計上しておきましょう。
リストアップさえしておけば、後で項目を削除とすことは簡単です。
逆に、作業や予算を増やす手続きは、多くの場合、大変な労力を要します。
様々なプロジェクト管理の方法が提唱され、それぞれ、メリット・デメリット、賛否があります。
しかし、いずれの手法を取るにせよ、管理の基本となる作業や課題の洗い出しには、まずほとんどの場合WBSを用います。
またWBSの手法を否定する人や意見を見たことがありません。
WBSはマスターしておいて損はありません。
コストの算出
計画工程で実施する重要な作業として、コストの算出があります。
もし、このプロジェクトが受注案件である場合、採算ラインが幾らなのかを早い時期に把握しておくことは絶対に必要です。
あるいは、社内プロジェクトの場合ても、プロジェクトの運営が適切であったのか、プロジェクトを実施した意味はあったのか、評価する際の重要な指針の一つになります。
プロジェクトのに関する3つのコスト
プロジェクトのコストには、以下の3つがあります。
②現在のランニングコストと現状を放置することのリスク
③プロジェクト実施後のランニングコストと解消するリスク
このうち、①がプロジェクトそのもののコストです。
プロジェクト実施を判断する際や、後日、プロジェクトを評価するには、プロジェクトそのもののコストと併せて、
プロジェクト実施前後におけるランニングコストの変化や、現状を放置することによるリスクが解消されるか、などを加味した総合的なコスト指標が必要です。
計画段階で、上記の3つのコストを正確に予測し、後段の作業に引き渡しましょう。
プロジェクトそのもののコスト要因
プロジェクトそのもののコストとして見積もりしておく必要のある項目は、下記のようなものです。
- 材料費/発注費/外注工賃などの原価
- プロジェクト実施に要する作業工数
- プロジェクトの管理・報告にかかる稼働時間
- プロジェクトを企画・計画にかかる稼働時間
スケジュールの作成
WBSによる作業の洗い出しが終わったらスケジュールを作成します。
ガントチャーとによるスケジュールの作成
スケジュールの作成には、主にガントチャーとというツールを用います。
プロジェクトの規模にもよりますが、少なくとも下記の2つのスコープのものを用意するのが一般的です。
- (全体)各作業工程を単位として、プロジェクト全体の進行が把握できるチャート
- (詳細)作業の管理を目的として、各作業の実施日や順序、実施者が把握できるチャート
計画段階では、このうち、少なくとも(全体)のチャートの作成し、作業全体が期間内に収まることの目途が立っている必要があります。
スケジュール作成の注意点
各工程ごとの期間を決めていく際、単純に作業日数を作業人数で割ればいいのではありません。
各工程に必要な期間は、「作業の依存関係」や「ボトルネック」、「クリティカルパス」を把握して、最低限必要な日数以上は確保していなければなりません。
・ボトルネック ・・・作業精算量が小さい部分、後続の作業を止めてしまう箇所、チーム全体の生産量もボトルネックの制約を受ける
・クリティカルパス ・・・依存関係のある作業の連続のうち、必要な日数が一番長いもの
プロジェクトのメンバーについて
プロジェクトを進めていくのはプロジェクトのメンバーです、また、プロジェクトの内容を決めるのも、作業を行うのも、管理するのも、全てメンバーです。
ですので、プロジェクトのメンバーについて、必要な人員をきちんと検討しておくことは非常に重要です。
計画フェーズでは、プロジェクトのメンバーに関して、少なくとも次の2つについて、検討し、目途を立てておく必要があります。
- (プロジェクト体制)プロジェクト運営の組織、人員配置、責任分担、意思決定、連絡経路などの体制づくり
- (アサイン計画)いつ、誰が何をするのか、どのような職能の人が何人必要になるか。必要な人員の手配
また、次の3つの観点からメンバーを分類し、意思決定、作業実施、進捗管理など、必要なワークフローが機能することを確認しておきましょう。
- 役割による分類 ・・・ 責任者、管理者、窓口、作業実施者・・・
- 職能による分類 ・・・ Webデザイナー、カメラマン、プログラマー、クレーン運転士・・・
- 契約形態による分類 ・・・ 社内メンバー、顧客、外注業者、派遣スタッフ、臨時スタッフ・・・
プロジェクトの成果物
プロジェクトが作業の結果としてなにを成果物として残すのか、計画工程で取り決めます。
プロジェクトの成果物の保全
・製造物の機能に関して、なぜそのように作ったのか、言った言わないのトラブルになった
・どうも作業を行っていないようだが、確認のしようがない
このようなトラブルは、きちんと情報を保全することでかなりの部分避けられます。
そして、成果物を決めたら、後で追跡できるようきちんと情報を保存しておきましょう。
プロジェクトの成果物の例
成果物はプロジェクトの種類により異なりますので、ご自身のプロジェクトに合ったものを設定してください。
以下に、何かを作ることが目的のプロジェクトと、作業をすることが目的のプロジェクトの場合の例を挙げておきます。
システム開発 ~何かを作るプロジェクトである場合~
- 機能設計書
- プログラムコード
- 実行環境及び実行ファイル
- テスト計画書及び実施報告書
- 運用マニュアル
- 議事録
清掃作業 ~作業自体がプロジェクトの目的である場合~
- 作業計画
- 作業実施報告書
- 検査報告書
- 実施結果の証跡(写真、計測結果、検査証、等)
- 仕入れ先・外注業者・廃棄物処理業者・作業員への代金支払い証書
(コラム)最初に作業の洗い出しは無理じゃないのか?
もちろん、最初の時点ですべての作業が正確に予期できるわけではありませんし、途中変更や、作業を進めていく中で抜け漏れに気付く事も必ず発生します。
しかし、全体の内容が決まってさえいれば、多少の変更は、期間的にも、内容的にも許容することができます。
そのためには、計画工程で、要望や決定すべき事項等をリストアップして、現状の想定における仮決定をしてしまうことが重要です。
一方、計画工程で作業の明確化を頑張るする代わりに、予算やスケジュールの余裕(バッファーといいます)を沢山取っておき、結果的に収まればいい、という解決法もよく採用されます。
しかし、この解決法はお勧めできません。
この方法は、一見安全策に見えますが、不明点の部分の要因と規模を把握できていませんから、大目に予算を取ったつもりでも、結果オーバーしてしまうことがありえます。
プロジェクトの運営にあたっては、序盤に正確な計画を立てることを繰り返し訓練しましょう。
初期設計や、見積もりに責任を持つことを繰り返していれば、プロジェクトの要件を聞いただけで、どんな作業がどれだけ必要なのか、おおよそ予測がつくようになります。

まとめ
- 計画フェーズでは、WBSで必要な作業を一通り全て洗い出す
- スケジュールを作成し、プロジェクト実現の目途を立てる
- 想定コストを算出し、後の評価に活用する